医療ガスライティング
医療ガスライティングとは何でしょうか?
医療ガスライティングは、医療従事者が患者さんによる症状の説明を軽んじたり、疑問を呈したり、患者さんの状態に対する理解を歪めたりすることです。故意の場合も、無意識のうちに起こる場合もありますが、いずれの場合も患者さんに影響を与えることに変わりありません。
医療ガスライティングは、非常に微妙な意味合いを持つことが多いため恣意的に定義することは困難です。しかし、担当医に痛みについて取り合ってもらえなかったり、症状が本当かどうか疑われたり、混乱させられたことがあるのであれば、まさにそれが医療ガスライティングなのです。
恣意的な定義が存在しないとはいえ、医療ガスライティングの意味が曖昧であるということでもありません。片頭痛患者としてしばしば経験していることであり、罪悪感を感じさせられ、片頭痛に関してもっと混乱させられる気持ちになるものです。
さらに医療ガスライティングは、年齢、人種、性別などからのバイアスや、片頭痛特有の複雑さや目に見えない症状だからこそ生じる懐疑的な気持ちからも起こります。悲しいことに、統計的に女性の方が男性より片頭痛の患者さんが多いというのが現状ですので、片頭痛に関する性差によるバイアスが蔓延していることがよくあります。
言葉の由来
「Gaslight」という用語は、1938 年の演劇に基づいたイングリッド・バーグマン主演の 1944 年の「ガス燈(Gaslight)」という映画に由来します。バーグマンは、最愛の叔母の死を目の当たりにした優しい若い女性を演じています。数年後、彼女は結婚し、叔母から受け継いだ家に戻ります。時間が経過すると共に、彼女が精神に異常をきたしていると疑われ始めます。彼女は家に閉じこめられていましたが、夫は周りに妻は体調が悪いと説明していました。彼女は次第に自分の精神状態に自信を失い、夜ごとに薄暗くなるガス燈の光や、天井から聞こえる物音に神経を追い詰められていきましたが、夫は彼女に精神状態が異常だからそうなるのだと言います。
思い当たる状況ではありませんか?
今日に至るまで、「ガスライティング」という言葉は大衆文化やリレーショナル・サイコロジーにおいて広く使われています。多くの場合、夫婦間のDV(家庭内暴力)の一種として取り上げられることが比較的多いですが、ガスライティングは医療分野でも発生する可能性があり、実際に頻繁に発生しています。それが医療ガスライティングと呼ばれるものです。
実例
医療ガスライティングは明らかにそれとわかる場合以外にも、注意すべき他の兆候があります。ニューヨーク・タイムズでは、その5つの兆候を紹介しています。
・絶えず話を遮られ、詳しい説明をさせてもらえない。こちらの話を全く聞こうという姿勢がない。
・症状について話すことを拒否される。
・病気の可能性を除外したり確認したりするために必要な検査をしてくれない。
・失礼な態度で、見下されたり軽視されたりしていると感じさせられる。現在の症状は気のせいだとか精神疾 患のせいだとか言われるが、「精神疾患」を改善するための紹介も検査もしてくれない。
その他の兆候には、片頭痛の症状を真剣に受け止めてくれないことや、パラセタモールを服用するなどの一般的な対処法だけできちんと向き合ってくれないことが挙げられます。頭痛ろぐ(Migraine Buddy)のチャットグループで、以前パラセタモールを処方され、そのせいで片頭痛発作が起きてしまったという事例について書いていた人がいました。皮肉なことですが本当のことです。
片頭痛がよく理解されていないことに加え、目に見えないものであることが拍車をかけ、医療従事者と片頭痛患者さんの両方が日常生活への影響を過小評価しているのが現状です。そのため、患者さんは自ら声をあげ、医療従事者に症状を考慮してもらうようにすることが不可欠です。
影響
最終的に医療ガスライティングは、信頼の喪失、自己不信につながり、担当医に症状を伝えるのが億劫になってしまいます。ある時点で、担当医に言われたように自分が考えすぎているのかもしれないと無意識のうちに思ってしまい、病院へ行くこと自体までやめてしまうことにもなりかねません。患者さんにとってはかなりのトラウマになります。
対処法
片頭痛患者さんは、必要な権利は自分自身で主張しなければなりません。ニューヨーク・タイムズは、以下のことを提案しています。
・症状に関して詳細に記録しておく: 症状、時間、誘因、痛みの説明等。
・担当医に質問する:事前に質問事項をリスト化しておき、診察時に持参し、それに関する質問にも心構えをしておく。
・誰かに診察に一緒に来てもらう:信頼できる友人や家族に診察に同席してもらい、その人の役割については事前に決めておく。例えば診察内容のメモを手伝ってもらう、一緒に聞いてもらう、医師に質問するなど。
・優先事項:診察は平均約18分間。診察から得たいことをメモに優先順位をつけて書いておき、診察時間を有
効に活用する。
次のステップ: 担当医に次の3つのことが必要であることを伝える。
1できる限りの診断、2診断または病気の可能性を除外するための検査、3今後の治療オプション
それでもちゃんと向き合ってもらえない場合
上記の対処法を行ってもまだきちんと聞いてもらえない、向き合ってもらえないと感じた場合は、他の医師を探す時かもしれません。信頼できる友人に紹介してもらったり、医療関係ネットワークに相談して紹介しを受けても良いでしょう。
同じ片頭痛患者さんに助けを求めることも同様に有効です。お住まいの地域のサポートグループを探したり、頭痛ろぐ(Migraine Buddy)を活用したり、地域の医療システムを通じて連絡を取ってみるのも良いでしょう。
「ガスライティング」から「アップリフティング」へ
片頭痛患者さんは、不釣り合いなほどに誤診と治療の遅れに苦しんでいます。私たちの片頭痛は、確実な原因と解決策が存在するような単純なものではありません。自分に合う治療を求めていくつもの病院を転々とすることもあります。そして、片頭痛のせいでカウントできないくらいの家族との時間、仕事の生産性、人生の楽しみを失わなければなりません。
医療ガスライティングの問題を逆転させアップリフティングさせることが、片頭痛とより良い治療の理解を深めることに繋がります。片頭痛の分野で研究と素晴らしいお仕事をされている先生方をサポートしていきましょう。同じ病気に苦しむ片頭痛患者さん仲間をサポートしていきましょう。そして、医療システムにおいて適切な治療法を求め続けましょう。私たちはそれを受ける価値があるのですから。
本記事はアメリカ在住のSusan Bassett様にご寄稿いただきましたものです。(原文英語)